2013/08/15

■甲斐 栄次郎写真集~ 「ライカで綴る古都ウィーン」  


バリトン歌手の甲斐栄次郎さんがウィーン国立歌劇場での10年の活躍を後に帰国した。「子供の教育を考えましてね」というのがその理由であった。ウィーン国立歌劇場には惜しいことだが、甲斐さんならきっと日本での活躍の場は多いだろうし、その分本場で吸収したものを広め、オペラファンを楽しませるであろう。日本のオペラのために彼の日本での活躍が貢献するに違いない。

彼はこの10年の間に41の役を演じた。子供のためのオペラを除いて、彼の出演した役は全部観たと思う。その中で特に印象に残っているのは”ラ・ボエーム”のマルチェロとショナールの二役。それに”シモン・ボッカネグラ”のパオロだったように思う。

”ラ・ボエーム”は貧乏な芸術家たちが、何時の日か自分の夢を花咲かせようと、屋根裏部屋で共同生活を送っている。その仲間たちに甲斐さんは良く溶け込んでいた。特に絵描きのマルチェロの役は主役の詩人ロドルフォとの絡みも多く重要な役である。
一方”シモン・ボッカネグラ”のパオロは、高貴な精神に満ちたシモンを最初は担ぎ、最後は個人的恨みで彼を毒殺するというユニークな役で、オペラの鍵をにぎる重要な役である。この役は初めから終わりまで目立つ。しかもドミンゴがバリトン役のシモンを歌って大きな話題になった公演である。この世界的大歌手を相手に、このオペラで大活躍するのがパオロの役だ。彼はこの役を見事に演じた。この10年で甲斐さんは大きく飛躍し、大変な蓄積をされたと思う。

ところが、彼はもうひとつ大切な土産を残してくれたのである。彼に写真の趣味があるとはついぞ知らず、それも立派なプロの腕前のレベルなのだ。彼はウィーン在住中にモノクロの写真集をモノしていたのである。 この本を最初見た時、彼の誠実な人柄そのままの本だと思った。写真も良ければ、それに添えられた短いコメントも気が効いていて、最後に添えられている文章に彼の写真に対する情熱と、彼がウィーンで何を得て何を感じ、何を吸収したかよく分かった。

彼とは彼のウィーン国立歌劇場での仕事が終わった後、ひょっこり街で出会った。暫くの立ち話で、彼の日本での活躍を祈って別れた。すると数日して彼の写真集「ライカで綴る古都ウィーンー音楽が聞こえるモノクロームの風景ー」が届いた。大変嬉しく、早速、一読ならず読み返した。
ウィーンに在住し帰国するにあたって、文集とか、本とか記念を残す人はいなくはない。その中で、甲斐さんの写真集「ライカで撮った古都ウィーンー音楽が聞こえるモノクロームの風景ー」は出色の出来である。出来がいいというだけではない。心がこもっているのだ。 是非読んでいただきたい著作である。

♪ ♪ ♪

オペラ座の建物を見た時
大きな船のようだなと思ったことがある

過去から受け継がれてきた
数々のオペラ作品

僕は船員のひとりとして歌う
進路は未来だ

―甲斐 栄次郎 「ライカで撮った古都ウィーン」より


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